西洋医学における円形脱毛症の治療法

西洋医学では、円形脱毛症に対して、なぜ発症するのか、という病因の特定がなされていません。現在病因と考えられているのは、遺伝的な要因、アレルギーが関連しているとするもの、精神的ストレスによるとするもの、自己免疫疾患によるとするもの、です。このうち、自己免疫疾患ではないか、という説が有力です。

こういった状況では、病院で行う治療は、対症療法のみしかなく、根本的な原因を除くことはできません。(逆に、ステロイドの副作用で症状が悪化することが多くあります。

具体的に病院では、どのような治療がなされているのでしょうか。

日本皮膚科学会の「日本皮膚科学会円形脱毛症診療ガイドライン2010」では、「ステロイド局所注射」と「局所免疫療法」が「行うよう勧められる」とされています。その他、11の治療法を「用いてもよい」としています。これらの治療法がどのようなものであるのか、ひとつずつ見ていきます。

(1)ステロイド局所注射
脱毛面積が25%未満で発症してから3ヶ月以上経っているが脱毛範囲が拡大するのが見られない、単発型・多発型の成人に用いることが推奨されています。少量のステロイド溶液を5mm間隔で、直接、脱毛部位に注射します。ただし、局所注射をおこなった部位の皮膚の委縮があるために十分な注意が必要とされ、小児には基本的に行わないとされる治療法です。

(2)局所免疫療法
脱毛面積が25%以上で脱毛範囲の拡大が見られない、多発型・全頭型・汎発型の人に用いることが推奨されています。年齢は問いません。SADBEやDPCPなどのかぶれを起こす薬品を脱毛部に塗布し、皮膚の炎症を繰り返し起こします。1週間もしくは2週間に1回くらいの割合で行います。60%以上の有効率があるとされいます。ただし、副作用として、全身性接触皮膚炎、局所のリンパ節腫脹、機械性蕁麻疹などを併発する可能性があります。

(3)点滴静脈注射によるステロイドパルス療法
発症後6か月以内の急速に進行している脱毛面積が25%以上の成人に用いてもよい、とされています。メチルプレドニゾロンが用いられます。大量のステロイドを3日間点滴で投与することで、脱毛範囲を縮小させます。発症してからの期間が短いほど効果があるとされ、6ヶ月以上たってからの症例では効果が出にくいとされています。不眠、動悸、頭痛、微熱などの副作用が確認されており、小児への使用は安全性が確立されていない治療法です。

(4)ステロイド内服・内服ステロイドパルス療法
脱毛が急速に進行している脱毛面積が25%以上の成人に、期間を限定して用いてもよい、とされています。同時に、この治療法の有益性について、再発率や副作用を考慮すると利益が危険性を上回る根拠は乏しい、とも述べられています。ですが、「国内における膨大な診療実績も考慮すると、推奨」になっています。酢酸コルチゾンやプレドニゾロン、デキサメサゾンなどが使用されます。ともに、内服終了後に脱毛が起こります。

(5)第2世代抗ヒスタミン剤
アトピー素因をもっている単発型・多発型に併用療法として用いてもよい、とされます。第2世代抗ヒスタミン剤は、1983年以降に発売された抗ヒスタミン剤をさし、それ以前のものに比べて副作用が少ないとされています。アレルギー用の薬として一般的に販売されているものが殆どです。円形脱毛症にたいしては、塩化カルプロニウムとアゼラスチンの併用、非ステロイド軟こうやPUVA以外の光線療法とオキサミドの併用、局所免疫療法とフェキソフェナジンの併用などで効果があるとされます。なお、副作用については述べられていません。

(6)セファランチン
単発型・多発型に併用療法として用いてもよい、とされています。ツヅラフジ科植物から抽出された有機化合物で、血液幹細胞増加作用、抗アレルギー作用、副腎皮質ホルモン産生増強作用、末梢循環改善作用をその薬効薬理とします。放射線による白血球減少症や円形脱毛症、粃糠性脱毛症に対して効果があるとされます。AGA(男性型脱毛症)においては、「根拠がないので勧められない」とされています。円形脱毛症に対しては、セファランチンの有益性は十分に実証されていないと述べられていますが、国内での膨大な診療実績を考慮して推奨されています。

この「有益性が十分に実証されていない」にもかかわらず、「国内での膨大な診療実績を考慮して治療法として推奨する」と記載されているものは、「グリチルリチン、メチオニン、グリシン複合剤」や「ステロイド外用」、「塩化カルプロニウム外用」、「ミノキシジル外用」、「PUVA療法」など、実際に病院で多く行われている治療法です。

患者さんたちに治療を行う際に、今から行う治療法は「有益性が十分に実証されていないものです」という説明は、行われていません。「効果があるのは証明されてないですが、皆がやっているのでやりましょう」と言われて、納得して治療を受ける患者さんがいるでしょうか。おそらくほとんどの方が、「効果があるのかないのかはっきりわからないなら躊躇する」のではないでしょうか。なぜ、病院では、そういった説明をしないのでしょうか。それは、円形脱毛症の原因がはっきりわからないから、自信を持って行える治療法がないから、に他なりません。ですが、医師は、それを患者さんに伝えることはできません。病院では円形脱毛症が治ると思ってきている患者さんに、事実を伝えることは、医師にとってもプレッシャーなのです。

結果的に、治療法に対する患者さんたちの不安は増していき、短期間で病院を転々としていく結果になります。病院からすると、「回転が激しい」疾患として処理されているのが現状なのです。

なお、このガイドラインでは、鍼灸治療も漢方薬内服も「用いない方がよい」とされています。なぜなら、鍼灸も漢方薬も施術者によってその効果にブレがあるからです。西洋医学では、医師個人の能力で効果が変わることをよしとしません。どの医師が行っても同じ効果がある治療法を確立することが、西洋医学の目標とするところです。(ですので、結果的に薬の処方が中心となっています。)ですが、鍼治療はとくに、施術者によって処方が異なる、いわば名人芸にちかい部分があります。そのため、医師が行うことができない分野であるともいえます。(これは、外科医でも難度の高い手術を行える医師が限られている、ということと似ています。)実際、外科医でなくても、医師によって診断は異なるために、間違った処方を行うことも多くみられることを考慮すると、個人の能力・技量に依存する割合は、西洋医学でも大きな部分を占めているのではないでしょうか。医師・病院の側からではなく、患者さんの側から、「円形脱毛症が治る治療法」のガイドラインが作成されることを強く望みます。

鍼治療の症例を見る

このページの先頭へ