陳氏針法 臨床治療効果をあげる4つのポイント
1.診断
個人の身体の個体差に対応
患者さん個人個人で異なる症状に対応した診断を行います
診断は、必ず中医学の基礎理論にもとづいておこないます。
中医学の基礎理論は、個々の人体と病気の関わりを認識できるだけでなく、鍼灸の治療方針をたてるための大切な参考資料です。
西洋医学による病名に安易に左右されたり、頭痛にはこのツボ、不眠であればこのツボ、生理痛にはこのツボといったやり方は、中医鍼灸の基礎が失われてしまいます。アトピー性皮膚炎や脱毛症などでも、そこには各種の病因があります。
患者さん個人個人に合わせて、治療を変えることが大切なのです。
2.治療原則と処方
ツボの組み合わせで異なるツボの作用
治療原則は診断に基づいて明確に
診断を行った後、確定される病症に対する治療原則は、明確なものでなければなりません。
ここで注意したいことは、西洋医学では同じアトピー性皮膚炎という病名であっても、中医学では治療原則が全く異なることが多いということです。
処方を正しく選ぶ
処方は治療原則を元に行われます。処方を組む際には、その病症に合わせたツボを選択し、そのツボの組み合わせが重要です。
例えば、「心律不整」(不整脈)の治療には、鍼灸は大変効果があります。特に、内関というツボは不整脈の治療に効果があることで有名です。
この内関穴というツボに刺入し、そのあとで足三里というツボを組み合わせます。結果は、5~6分で心拍数が上昇します。
また、内関穴というツボに刺入したあと、交信穴というツボを組みあわせると、心拍数が減少します。
つまり、ツボの組み合わせによっては、全く逆の結果を出す場合があります。
3.穴位と手技
穴位とはツボの正確な位置を把握すること
ツボ毎に作用は異なります
ツボは、それぞれに異なる作用があります。
例えば、足三里というツボと陽陵泉というツボは、ほんの一寸の距離差しかありませんが、足三里というツボは胃腸に作用し、陽陵泉というツボは胆嚢に作用することが分かっています。足三里に刺入して、X線下で胃腸を観察すると蠕動が増強します。また、陽陵泉に刺入すると胆嚢の胆汁排出機能が増強されます。胆嚢の病気で足三里に刺入しても何の効果もないのです。
ツボの位置を正確に知ることが大事なのです。いくらツボを知っていても、その効果に合わせて正しいツボの位置を正確に把握していなければ、意味がないのです。
治療効果を引き出す手技 針の響き・針の刺激量
ツボの正確な位置を把握するのと同じくらい重要とされているのが、手技です。
ツボに針を刺すだけでは、治療を行ったことにはなりません。「得気」という針を刺すことによって与えられる刺激があって初めて、生体に治療効果を及ぼすことが出来ます。「痛みのないハリ治療」と言われますが、これは非常に軽い症状に対しての効果しかなく、実際に治療を目的とした場合は、重く張ったような鈍い感じがします。「痛い」という感覚とは全く異なった感覚で、じんわりと「効いている」と感じます。
この刺激の「量」は、薬と同じで、疾患に対してどれだけの量(刺激量、刺激時間)を与えるか、というのが施術のポイントになります。
中国での例ですと、強い胸悶のある患者さんを治療するのであれば、神門というツボに強い刺激を与え、比較的強い響きを与えます。神門に与えた刺激が非常に長い、深い眠りを導き、興奮状態は次第におさまり胸悶はおさまっていきます。
当院では、ひとつのツボに対して、このような強い響き・刺激を与えるのではなく、日本人の体質に合わせた複数のツボを組み合わせることで量の調整を行っていく方法をとっています。
治療効果を引き出す手技 針下の感覚を正確に読み取る
手技は、技術や施術時間の長短だけではなく、患者さん個人個人に合わせた適切な量によって、疾病に対してよい反応を起こさせることが目標です。この量をはかる目安として、針を刺した時の針下の感覚に注意します。
例えば、神経痛の時の針下の感覚は、沈むような締めるような感覚があります。手技を施していくと、針下の感覚は緊張のなくなった、やわらかくなったような感覚に変わってゆきます。また、虚証の時は、豆腐に刺したような感じで引っかかりがありません。手技を施していくと、柔らかくなく引っ張るような感覚に変わります。
患者さんや疾病の状態によって、手技の量も自然と変わってくるのです。
4.時間的要因と治療クール
治療する時間と回数
針の効果の持続時間は、中国での臨床実験で6時間と判明しています。中国では、入院患者には朝夕の2回の治療を行っています。また、外来患者には、毎日あるいは一日おきで2週間1クールの治療を行っています。
日本では、生活環境の違いもあり一日2回の治療は難しく、陳氏針法は効果を1回の治療で2~3日まで延ばしています。
累積効果
鍼灸の治療効果には、「累積効果」というものがあります。
ある一定期間を経た後にその治療効果が現れるというものです。針を刺してから何日か経った後で、急に効果が現れることがあります。
体内の自己調整力を回復または向上することによって、効果が現れるのです。
この累積効果には、もう一つの側面もあります。
4回、5回と治療を重ねて初めて、治療効果が現れるということです。さらに、治療を重ねていくと効果はもっとはっきりしてきます。
治療効果を引き出すためには、疾病の軽重や性質を正確に把握して、その一つ一つに対処してゆくことが大切です。疾病の時間的要因や、疾病に対する累積効果も考慮に入れながら、治療クールを正確にたてることが重要です。