アトピー性皮膚炎とステロイド

アトピー治療に使われるステロイド剤は、化学合成されたホルモン剤です。
具体的には、副腎の外側(皮質)から分泌される「副腎皮質ステロイドホルモン」の中の「糖質コルチコイド」を人工的に作ったものです。
「糖質コルチコイド」の役割は、

  1. 糖質(炭水化物)やタンパク質、脂肪の代謝を調節する
  2. 水分やミネラル分を調節して、血圧や血液量、水分量を保つ
  3. ストレスに対応する
  4. 炎症やアレルギー反応を抑える

という4つがあります。
この最後の「炎症やアレルギー反応を抑える」という働きを狙って、アトピー治療にステロイド剤が使われています。

アトピー性皮膚炎の発症原因は、西洋医学においては解明されておらず、アトピー性皮膚炎を治すための治療法は確立されていません。つまり、アトピー治療に使用されるステロイド剤は、アトピー性皮膚炎を治療するために処方されているのではなく、目に見える炎症を抑えるために処方されていることを認識しておく必要があります。

なお、ステロイド剤は、アトピー性皮膚炎だけでなく、様々な病気、怪我、外科手術においても使用されています。市販の医薬部外品にも含まれているものがあります。知らず知らず使用し続けていた、という可能性も大いにあるのです。(大人になって初めてアトピー性皮膚炎を発症した場合、この影響が考えられます。)

日本皮膚科学会の「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン」では、ステロイド薬の外用、タクロリムス軟膏の外用が治療法としてあげられているのを考えると、未だにステロイド薬を処方している医院はかなりの数にのぼると考えられます。炎症を確実に抑えるには、確かにステロイド剤が確実(ステロイド剤しかない、という表現の方が適切かもしれません)です。理論上、炎症が突発的なものであり、すぐにその炎症を抑えなければいけない、という状況であるなら、自身の生産する「糖質コルチコイド」で不足する分を体外から取り込み、炎症を抑えるというのは、非常に良い方法でああると考えられます。問題は、その人にとって今必要な(不足している)「糖質コルチコイド」の量がわからない、ということです。そのため、必要以上のステロイド剤を使用することになります。いわゆる「大は小を兼ねる」という乱暴な処方に偏っていくと推測されます。

事実、当院に来られた患者さんから、「治らないのは薬を塗る量が少ないからだ」とか「症状がよくならないなら、より強いステロイド薬に変えましょう」などといった診療を受けた、という話をよく伺います。西洋医学という枠の中で治療法が限られているのは致し方ないとして、あまりにも患者さんを馬鹿にしているとしか思えません。昔から、薬と毒は同じものと考えられてきました。薬も量によっては、毒となるのです。薬を処方する責任をもつ医師が、これを知らないとはいえないですし、使用する量のコントロールをしないのは、その責任を放棄しているとしか言わざるを得ないでしょう。逆説的にいうならば、そうせざるをえないことが、アトピー性皮膚炎に対する医療の限界を示しているのかもしれません。

当院では、原則としてにステロイド剤の中止(ステロイド離脱、脱ステ)を勧めています。ステロイド剤の中止に、少しずつ量を減らすという方法は、あまり意味をなさないからです。重症化しているアトピー性皮膚炎は、「アトピー」という病気ではなく「ステロイド皮膚炎」とでもいうべきものになっています。これは、数か月以上の長期間、ステロイド剤に依存している状態であり、過剰なステロイドホルモンが既に体内に蓄積されていると考えられます。(2~3日といった短期的にステロイドを大量に使用し、すぐにその使用を中止するような場合には、これだけを理由にアトピー性皮膚炎が重症化するというのは考えにくいです。)大量のステロイド剤を摂取するのが常態化しており、使用をやめると症状が悪化するというリバウンドがおこってしまう状態です。この時期に、徐々にステロイド剤を減らすことは、リバウンドを回避することにはなりません。へらしたところで、リバウンドは起こります。ステロイド剤をやめて翌日からリバウンドが起こるのか、1年以上経ってからリバウンドが起こるのか、患者さんによってまちまちです。減らすことと、完全にやめてしまうことは、リバウンドの有無に関係ないので、一気にやめる方がよいのです。

ただ、ステロイド離脱、脱ステを行う前に、しっかりとした準備が必要です。長期間、大量のステロイドを使用しているほど、リバウンドはきついものだからです。今まで、症状が出ていなかった部位にも症状があらわれることもありますし、よりひどい症状になる可能性もあります。また、今までの生活習慣を変える必要もあります。一緒に住んでおられるご家族、仕事をしているのであれば職場の協力も必要です。大変な努力、時間、周囲の協力が必要不可欠です。そして、それは1ヶ月やそこらで終わるのではなく、数年単位で一定期間続ける必要がある場合もあります。(特に、生活習慣について。)ですから、「完治する」という意志がなければ、途中で挫折してしまうことがあります。(挫折自体が悪いことではありません。準備が整っていないのに、ステロイド離脱を行ってしまっただけのことです。)チャレンジすることは、いつでもできますし、何度でもできます。ただ、「完治(アトピー性皮膚炎が再発しないこと)」という目標が明確でないなら、少しでも迷いがあるなら、脱ステしきれずにステロイド剤に戻ってしまう可能性が高いです。(その時は、「今は未だその時期ではない」というだけのことです。脱ステに失敗したことで、どうかご自分を責めないで下さい。それは失敗ではなく、チャレンジしたけれど準備が整っていなかった、というだけなのですから。)ですから、脱ステの覚悟があるのか、しっかりと自分に問いかけ、チャレンジすることをお勧めします。

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