緑内障/改善と再発繰り返す
発症から来院までの経緯
40代の女性が緑内障と視野異常で来院されました。近視、乱視もあり、低体温の症状もあるとのことでした。今までに結膜炎、めまいといった症状もありました。
とくに自覚症状はなく、コンタクトを長年使用し、充血が気にはなっていたとのこと。1年半前にめまいが発症、耳鼻科でステロイド薬を服用、その後こめかみが痛くなったそうです。同月、人間ドックの眼底検査で「視神経乳頭陥凹」を指摘されました。右目の視野が欠けているとのこと。大学病院で「正常眼圧緑内障」と診断され、プロスタグランジン系点眼剤(トラボプロスト)を処方されましたが使用せず、眼を転院しました。その後、点眼液(レスキュラ)を処方され、1日2回、点眼をしていました。毎月1回の眼圧検査を行い、当院に来院するまで眼圧が右19~13mmHg、左10~15mmHgの間を変動していました。
患者さんは、点眼液が根本治療にはならないことが分かり、副作用も心配されていました。ただ、視野がすこしづつ欠けてきているのではないかと不安があるため、不定期には点眼を続けていたとのことでした。また、漢方薬も飲んでいましたが、効果はわからなかったとのことでした。
眼圧の症状が出る2・3年前から、対人関係に強くストレスを感じていました。身体の症状としては、手足の冷えを年中感じており、特に身体の左半分が冷えを感じやすく、左右の差が激しい状態でした。実際に体温を計ると、右が36.1度であるのに対し、左は35.4度でした。他の鍼灸院も受診し、しょうが湯などを飲んだりしても変わりませんでした。
当院に初めて来られた際に、眼圧は両目とも15mmHgでした。ベースライン眼圧を知るためや、副作用の予防や鍼の効果を客観的にみるために、点眼液、漢方薬、サプリを中止しました。かかりつけの眼科医には、鍼治療を行うこと、点眼液を使用しないことを了承してもらい、1ヶ月から2ヶ月に1回の割合で定期的に眼圧の検査をしてもらうという良い環境が出来ました。症状としては、顔面、眼瞼浮腫が認められました。両目に充血、眼刺激感、下眼瞼皮膚の色素沈着もありました。また、低血圧、低体温、ストレスを感じやすく、アレルギー体質のため結膜炎によくなるなどもありました。
当院での治療の経緯
点眼薬(レスキュラ)は1年近く1日2回使用していた為、その副作用で結膜充血、角膜炎、色素沈着、視力低下、頭重、頭痛などが発現していました。鍼治療を開始する前に、2時間のカウンセリングで症状と点眼液と漢方薬の作用・副作用を説明し、鍼治療の効果及び回復の過程などをよく話して理解したうえで治療を開始しました。点眼液を中止すると、一時的に眼圧が上がる可能性がありますが、これはたんなるリバウンド現象です。正常範囲内の眼圧なのに視野欠損があるため、眼圧を下げると眼圧が逆に上がりやすく、また薬の長期使用で目に炎症、びらん、浮腫、視力低下、複視、霧視などの副作用が出現し、そのため、病院より抗炎症剤のステロイド(フルメトロン)を処方されるという状態でした。ステロイド自体は緑内障の強い副作用を持ち、劇薬なので、より眼症状を進行させる可能性が大きいです。ですので、鍼治療の最初から眼圧を押し上げることがあるとしても、治療を続けることによって眼圧は下がり安定するようになります。
治療は、週に2~3回の通院からとなりました。目の周囲に特殊なツボがあります。ここに特別な手技を行い、体に免疫力の回復をさせ、精神を安定させることができます。また、自律神経の調節、目や脳を含む全身の血行を良くすための全身調整が治療方針となりました。
2ヶ月後、両目の眼圧は12mmHgに安定していました。体の左側の低体温現象が改善され、右側とともに36.4度まで回復しました。体中に常にぽかぽか感があります。
初診から3ヶ月後、眼圧、体調はかなり安定しています。視野検査では、視野欠損は進行していないことを確認しました。体調が良すぎたため、子供の野球の練習に付き添うなど患者さんの活動範囲が次第に広がり、週2回の治療から、週に1回ないし10日に1回のペースになっていました。
初診から5ヶ月後、月に2回のペースの治療になりました。体調が良く、眼科の定期眼圧、視野検査結果も安定してきていましたが、患者さんの症状を大きく左右する時期でもあります。症状に安心しすぎて、初診時のカウンセリングの時の忠告をすっかりと忘れているようです。
初診から6ヶ月目は治療に来られませんでした。
初診から7ヶ月目に来院された時には、体調が悪くなっていました。治療に来なかった月に、1週間のキャンプへ行き、長い時間車に乗っていた為急に激しい回転性めまいを発症したとのことでした。耳鼻科を受診したところ、ステロイド錠剤を1日2錠4日間分処方され、服用を行ったとのことでした。ステロイド内服薬1錠5mgの効果は、もっとも強力なステロイド塗り薬を10g塗布するのと同じことです。眼圧も16mmHgに上がっていました。その後、軽いめまいが数回あり、体調が少しましになったので来院となったとのことでした。
鍼治療では、短期間で、薬も服用せずに症状を改善することができます。ただ、「もう大丈夫」と患者さん自身が判断してしまい、再発することが多くあります。今回もこのケースでした。このような症例は、今までの臨床経験上よく遭遇します。患者さんは、数年か数十年間自分を苦しめる病気から短期間で改善すると、すぐに安心し油断する傾向があります。緑内障、アトピー性皮膚炎、不安神経症、糖尿病、高血圧などの患者さんによく見られます。
その後、またまじめに通院すると、今までのように元気で回復します。
症状がかなり安定すると、自然に通院間隔が空いてもよい時期がきます。その時期の判断は、個人差があります。例えば、薬の服用歴が長いか短いか、強い薬だったか弱い薬だったか、体に副作用がどれくらい出現していたか、また病気にかかった期間が長いか短いか、そして日常生活で当院のアドバイスをどれくらい実施しているかによります。